極めるとはどういうことなのか






飯野勝巳
1953年、宇都宮市生まれ。
自動車会社のディーラーにて営業を担当したのち独立。
現在、クルマのコーティングのプロとして活躍中。
栃木県ではその道の草分け的存在。


 −本日はよろしくお願いします。さっそくですが、飯野さんはクルマのコーティングの達人だそうですね。 具体的な仕事内容をお聞かせください。

 はい。ひとことで言うならば、クルマの”磨き屋”です。 当社が独自に開発した「ハイ・ポリマー501」を施せば、その後は、簡単な洗車と拭き取りだけで長期間輝きが持続しますよ。

 −長期間とは一体どのくらいなのでしょうか。

 クルマの車種や乗り方、そして持主の扱い方によりますが、最低でも1年は塗装面の保護と美観が維持できます。 加工後はもちろんワックスも不要です。 当社では1年間の保証書を発行していますので、塗装が落ちた、ツヤが効いていないなどといった場合には無償で再度加工します。
 この仕事をはじめて今年で14年になりますが、おかげさまで、再度の加工を求められたことはありませんけれど(笑)。

 −それはすごいですね。では飯野さんがこういった仕事をはじめられたきっかけは何だったのでしょう。これまでの経緯をお聞かせください。

 十数年前、自動車会社のディーラーで営業マンをしていたんですね。 その時、「クルマのコーティングをしたいのでどこか紹介してください」とお客様から度々尋ねられたんです。 ところが調べてみると、当時はこれが非常に少なかった。それならば自分でやろうと思ったわけなんです。

 −いわゆる脱サラですね。

 そうです。小さい頃から乗り物が大好きで、特にクルマのプラモデルはいくつ作ったか分かりません(笑う)。 ディーラーの営業マンになったのも、クルマが好きというのがきっかけでしたね。

 −独立したいと周囲に告げた時、反対はありませんでしたか?

 子供が1才の時でしたから、親も親戚もそりゃあ反対しましたよ。 でも、どういうわけかカミサンだけは応援してくれたんです。 「私も手伝うから一緒に頑張りましょう」みたいな感じで。今は仕事の上でも欠かせないパートナーとなっていますね。 また幸いなことに、営業マン時代に築いた経験や人脈が大きな支えになりました。


作業に集中する飯野氏、表情は真剣そのもの






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 −でも何よりも、飯野さん自身の人柄や信頼、そしてハイレベルな技術があってこそなのでしょうね。

 ありがとうございます。私は人間関係にとても恵まれてきましてね。それには本当に感謝しています。 というのも、昭和62年に独立した時点では、チェーン店のひとつとしてのスタートだったんですね。 いわゆるフランチャイズだったので、当然ながら研修も少なくなかったんです。
 当時、県南地区に比べて、この業界の県北地区は非常に遅れをとっていたんです。 それで、足利や栃木のチェーン店に出向いて技術を習得したこともあったのですが、ここの先輩方というのがとても親切で。 うまく表現できませんけれど、不思議な縁を感じてしまいますね。

 −そうですよね。数々の研修を乗り越えて今の飯野さんがいるわけですから。

 不安もありましたけれど、そうやっていろいろな人に支えられてスタートしたことがなつかしいですね。 その数年後、フランチャイズを抜ける決意をして本当の意味で独立を果たしました。 平成6年のことです。

 −あらゆる面で自信がついたのですね。

一台一台丁寧に作業する。
心を込めるほどピカピカに。

 −実際の仕事内容をもう少し詳しく聞かせてください。 クルマのコーティングというのは、どういった流れで行われるのですか。

 基本的には4段階に分かれています。 ごく簡単に説明すると、まずはじめに「洗車」をして、鉄粉や汚れを取り除きます。 次は「ポリッシング作業」。ポリッシャーを使って丁寧に磨きます。 そうしたら今度は「コーティング加工」で、コーティング液をすり込む熱処理加工を行います。 最後は、いくつかの仕上げ作業の後に「自然乾燥」をして完成といった手順です。

 −ポリッシング作業にコーティング加工・・・。すみません、素人なものであまり効きなれない言葉なのですが。

 5種類のポリッシャー(下写真)が揃っていますので、汚れによって使い分けて磨き上げます。 また、コーティング加工は3通りの方法がありますが、当社はいちばんレベルの高い技術を採用しているんですよ。


 −3通りですか?

 そうです。まず一つめは、素人の方がコーティング液を塗る方法です。二つめは、エアガンによるスプレーです。 そして三つ目は、私たちが採用している”ポリッシャーによる加工”。
 自分で言うのもナンですが、このポリッシャーを使った加工法は非常に難しいんです。 けれどはるかに仕上がりがきれいで、その後の維持期間も抜群なんです。

 −なるほど、それは大きな魅力ですね。

 当社では、県内では扱っていないコーティング液も使用しています。 これは企業秘密なのであまり言えませんが、実は磨き液も特注なんですよ(笑)。 これまでの経験を活かしてようやく探し当てたものなんです。 アレとコレをこの割合で配合して、という具合に。

 −それはスゴイですね、まさに達人です!

 あとはハード的なことをいえば、光沢度計や塗膜計もありますから、加工前と加工後の違いを数字であらわすこともできます。 もちろんパッと見でも一目瞭然だと思いますけれど。ちなみに光沢度は、新車で80、中古車で50程度です。 実際に計ってみましょうか(立ち上がり、仕上がり寸前のお客様のクルマに光沢度計を当ててみる。下写真)。83.5ですね。


光沢度計で光沢度をチェック!

 −新車よりも高い光沢度!どおりでピカピカのはずです。

 このお客様はリピートですからこの数字が出たのでしょう。1年前にも私が加工しましたからね。
 −ところで、金額と時間はどのくらいかかるのでしょう。

 軽自動車で2万2千円からです。時間は中古車で12時間、新車でも8時間はかかりますから、一泊二日ということでお預かりしています。  現在、実際に作業をするのは私とカミサンの二人だけなんですね。二人で一日1台が精一杯なんです。 というのも、私のポリシーに”人まかせにしない”というのがありまして・・・。 アルバイトを雇うことはいくらでもできるのでしょうが、質が落ちるのが許せないんですよ。 熟練した職人が施せば仕上がりが本当に美しい。 正直なところ、とても手間はかかりますが、一台一台心を込めて作業していきたいんです。


信頼される技術があってこそ、高級車の依頼も少なくない

こだわりを持ち続けるのは、
誇りに思える仕事だからこそ。

 −素晴らしいと思います。やはりそれが真のプロなのでしょうね。

 何よりもお客様からの言葉がいちばんうれしいんですよ。 とても励みになりますし、また頑張ろうと思えるんです。 たとえ「ありがとう」と言われなくても、お客様の表情を見れば満足していただけたことが分かりますからね。  そして、1年後にちゃんとお客様が「またお願いします」と言ってもらえると、これはもうプロ冥利に尽きますよ。

 −ところでこちらでは、コーティングに限らずルームクリーニングもやっているのですか。

 ルームクリーニングやヒビ割れ、そしてフィルム貼りなど、お客様にもよく聞かれるのですが、残念ながらやっていません。 私はそういう意味では不器用で、あれもこれもやると集中できなくなってしまうんですね。 一つのものを完全にやり遂げたいタイプなんですよ。  ただ、車内に掃除機はかけますし、灰皿や足マットの掃除はしています。 本格的なルームクリーニングはやっていませんけれど・・・。

 −自分の仕事に本当にこだわりをお持ちなのですね。 それでは最後に今後の抱負をお聞かせください。

 そうですね、これからもいい意味でのこだわりを持ち続けたいですね。 お客様から依頼されたクルマを、一台一台丁寧に、時間をかけてきれいにしていきたい。 それが私の使命だと思っています。  ちょっと余談になりますが、当社のお客様の事故遭遇率は非常に低いんです。 クルマがきれいなだけに、それを維持しようと、皆さん気をつけて運転しているのだと思います。 まあ、それは無意識かもしれませんけれど。  クルマをきれいにすることで、お客様を危険から回避できる役割も担っていると考えると、責任も大きい分、達成感もやりがいもあります。 クルマを愛するゆえに選んだ自分の道。今後もこの仕事を誇りに思って頑張っていきたいですね。

 −本日はお忙しいところありがとうございました。


メールの質問に丁寧に答えることも大切な仕事





『わんだ』 2001年 第12号より